三兄弟と三姉妹

柳生三兄弟と服部三姉妹の初顔合わせ&プレ夫婦漫才。


   又十郎とお鏡


 柳生屋敷の一室で、又十郎はお鏡と対座していた。
 白皙の額。朱をひいたような唇。ほっそりとなよやかな、容顔花のごとき美少年である。が、その優美さに反して、先刻からお鏡をジロジロとながめまわしている視線は、甚だ無遠慮で無礼であった。
 人間を見るようではない──まるで品物を値踏みするかのような陰湿ささえのぞく眼つきで、彼はお鏡を観察していた。
 お鏡はひそと坐っている。伏し目がちにうつむいた顔に長い睫毛が翳をおとし、楚々として可憐な中にもどこか寂しさをあわせもつ。白梅のように清純な美少女であった。
 小刻みにわなないているのは恥じらいのためか。よほど内気な性格の娘らしい。
(……ふむ、これが服部の末妹か。あの半阿弥老の孫娘ときいて、いかなる醜女かと思いきや……まずまず見られた面をしておるの。……いや、これほどの器量、柳生の庄の女どもにもそうざらにあるまい。肌の白さときたら、まるで雪のようじゃ。……それにしてもおとなしい女だな。さっきから一言もしゃべらず、ただふるえるばかりで……。どこぞ病んでおるのではあるまいな? そうでなくとも、かように弱々しげな見目の女子は、質実剛健が家風の柳生家の嫁にはおよそ似合わしからぬ。……どころか、これではとてもこやつに家事を負わせることは出来ぬ。この華奢な肩、この細い指……傷などつかぬよう大事に扱って、守ってやらねばならぬではないか。……)
 と、つらつらと考えこんでいた又十郎は、ふとわれに返った。──馬鹿か、おれは? 祝言もあげぬうちから所帯じみた心配事を並べてどうするか。だいいち、この女がおれの女房になるなどとは、まだ認めたわけではないぞ。
「お鏡どの。妙な成り行きで、そなたとわしはめおとになるはこびと相成ったわけじゃが──。そなた、よろしいのか。縁組み勝負なぞちとばかげておるが、勝負である以上はこの又十郎、女相手とて容赦はしませぬぞ。まず、お鏡どのには不憫な結果となりましょうな。恐ろしくば、正直に申されよ。いまならまだ遅くはない、わしから半阿弥どのに中止を申し入れて進ぜる」
 又十郎は片頬に嘲弄的な笑みを浮かべた。女みたいにやさしい顔だちをしていて、これはばかに高圧的な態度をとる男だ。
 お鏡は伏せていた顔をもちあげ、又十郎を見て、はじめて口をきいた。
「……わたしは、お祖父さまの仰せに従いまする」
 姿同様に、その声もまた可憐であった。きいて、又十郎はほ、と眼をまろくした。ほそいが、確たる意志のこもった声の返答は、いささか意外であった。
「はあ。ではお鏡どのには、わしと立ち合う覚悟がおありと考えてよろしいのですな」
 冷然と、うす笑いをしながらそんな台詞を吐いたくせに、お鏡の双眸にみるみる涙が盛りあがってきたのを見ると、彼はややうろたえた。
「は、はい……。又十郎さまの妻になるため必要な儀式とあれば、是非もなく……」
 頬を染め、涙ぐんだ瞳でせいいっぱいに又十郎を見つめている。その哀艶なまなざしをうけて、又十郎もわれしらず頬を紅潮させた。わけのわからぬ気恥ずかしさとこそばゆさがからだ中をめぐるようで、わっとさけび出したくなった。目の前の娘に、抱き寄せていますぐ口を吸ってやりたい衝動をおぼえて、同時に、顔を覆っていますぐ彼女の前から逃げ出したい恐怖にかられた。
「お、おれの妻になるためといって……。たわけ、そなたと逢うのは今日がはじめてのわしに、な、何を、左様に意気込みおるか」
 わずかに身をひいて、どもりながらたずねると、お鏡はしずかにかぶりをふった。
「いいえ、はじめてではありませぬ。──もう二三年ほど昔になりましょうか。お祖父さまとともにわたしは、さる御用で柳生谷へ参りました。そのとき、このお屋敷のお庭であなたとすれちがったことがございます」
 又十郎は首をひねった。二三年前? ──はて、憶えがないが?
「あなたはお気づきではござりませなんだ。いちど、こちらをご覧になられましたけれど、わたしなど眼中にないといわぬばかりにさっさと歩いておゆきになって。……でも、以来わたしは、あなたのお姿を忘れた日は一日とてありませぬ」
 息をきざむようにほそぼそと、だが異様にひかる眼を又十郎にすえていう。
「お鏡は、あの日からずっと……又十郎さまを……」
 お慕いしておりました、の一語をのどでのんで、さしうつむいた。その姿ははかなげで、いまにも消えいりそうに見えて──又十郎はふたたび自分でも理解しがたい興奮におそわれかけた。
 ……と、彼女はへんにウットリとした微笑の顔をあげて、
「又十郎さまとわたしが……。叶わぬ夢だと思うていました……いいえ、まだ夢をみている心地がいたしまする。わたしは怖い。……ああ、ほんとうに、醒めたらすべてが消える幻ではないかしら……」
 声が途切れて、お鏡はグラリと前にのめった。極度の緊張で喪神したのだ。又十郎は仰天してそのからだを抱きとめた。
「お鏡どの、お鏡どの。どうしたのだ、これ、しっかりなされい。おおい、だれか来てくれ──」
 又十郎の腕の中で、お鏡は依然ウットリとした、夢みるような笑顔で失神しているのであった。


   七兵衛と環


 柳生屋敷の一室で、環は七兵衛と対座していた。
 紅梅のように凛とした美女であった。氷を彫ったごとく冷たい美貌ながら、濡れたようにかがやく真っ黒な瞳と、ややまくれあがった唇が、ぞっとするほどの色気を醸し出している。
 凄艶とも形容すべき女人は、とまどいと不審を交互に顔にあらわしつつ、七兵衛を観察していた。
 七兵衛は粛と坐っている。がっしりした長身、きりりとつりあがった濃い眉、いかにも男らしく凄壮の気さえまとった青年だが、右眼が糸のようにとじられている。隻眼だ。美男であるだけに、それは彼の風貌にいっそうの凄味を加えていた。
 ──が。この妖気をもはらんで見える男がいまは、半泣きの幼い表情で、ひどく落ち着かない素振りで一眼をさまよわせている。実際、「弟のようすを見て来よう」とか「兄の方はどんな首尾か」とかいってはなんども席を立ちかけたが、その都度、環が袴をつかんで坐り直させた。所在なげにまわりを見まわし、環と視線があうと、それだけで生娘みたいに赤面して縮こまる。しばらくすると、またソワソワとし始めて──さっきからそのくりかえしだ。
 一刻ばかり前に書院で祖父服部半阿弥と柳生の石刀自立ち会いのもと、服部三姉妹、柳生三兄弟として対面したときは、颯然堂々たる彼の物腰に眼を奪われ、さらには全身の血がどよめくような胸の高鳴りまでおぼえたほどであったのだが……。その後この別室に通され、二人きりとなってからは、こはそもいかに、まるで別人にかわったかと思われる豹変ぶりである。見ていて、環は内心にあきれかえった。
「七兵衛どの、すこしは落ち着きなされませ。何もあなたをとって喰おうなどいたしませぬ。それとも、わたしはそんなに恐ろしい女に見えますか?」
 と、ひくくたしなめた。声にかすかな嘲りを含んでいる。それには気付かず、七兵衛はあわてて背筋をしゃんとのばした。
「……あいや! さっ、左様なことはござらん! 環どのが恐ろしいなどとは、おれはこれっぽっちも考えてはおらぬよ。……いや、恐ろしい、恐ろしいか。……ううむ、いわれてみればちょっとそんな気がしないでもない……」
 環の片眉がはねあがった。こんどは、あきらかに侮蔑の笑い声をたてた。
「おほほほほ! 七兵衛どのは、女が怖いと仰せなさる。ご立派な殿方が、いい齢をして、まあおかしい」
 さらに挑発的な眼を投げて、
「一ト月のちに敵として相まみえる花婿どの、いかほどの精ありやと思いきや──なんと腑甲斐ない! これでは、戦わずしてもはや勝敗は決したも同然。七兵衛どの、服部家への婿入り道具を、いまからお揃えなさいまし」
 辛辣な罵倒にさすがに七兵衛の面上にも一瞬、怒気が浮かんだ。──だが、すぐにもとの萎縮しきった顔色に戻って、こめかみをかいた。
「わしもはじめは、小癪な服部の女、しゃッ面を見たあとは、その生意気な鼻っぱしらをどうへし折ってくれようと、てぐすねひいて待っておったのだが……。どうも、いかん。そなたをひと目見てから……わしは心もからだもおかしくなったようじゃ」
 環ははたと沈黙した。笑いを消し、真剣な面持ちで七兵衛をのぞきこんだ。
「──と、申されますと?」
 ちらっ、ちらっと彼女をうかがいつつ、七兵衛は畳の目を指でなぞったりしている。
「まあ、その、何だ……わかりやすく申せば、そうさな……」
 口の中でニョゴニョゴといった。歯切れの悪いことおびただしい。ある期待に胸をとどろかせて、環はかん高いさけびをほとばしらせた。
「はっきりとおっしゃって!」
「あ、うん。つまり、どうやら、おれはそなたに……惚れた、らしい。うん、惚れたんだろうなあ。……」
 頬をあからめ、気弱げな片眼で上目遣いに環を見つめている。その真摯なまなざしをうけて、環もわれしらず頬を紅潮させた。わけのわからぬ気恥ずかしさとこそばゆさがからだ中をめぐるようで、きゃっとさけび出したくなった。目の前の男に、抱きしめていますぐ身をなげかけたい衝動をおぼえて、同時に、顔を覆っていますぐ彼の前から逃げ出したい恐怖にかられた。
 ……と、七兵衛が頭をかかえて、声をしぼった。
「いずれはおれとめおとになる間柄のそなただ。惚れただけならべつになんの問題もない。したが喃──なぜかはわからぬが、おれはそなたの前に出ると足がすくむ。肝が冷える。いいや、それだけではない。自分でも如何ともしがたいのじゃが、おれの──」
 ふいに言葉を止めると、おのれの下腹部のあたりを凝然と見すえた。沈痛悲壮な眼色であった。
 おかしいことに、このとき環は、年上の、それも仇敵といってしかるべき家の子息である七兵衛に対して、姉か母親みたいな心境になった。彼の態度の意味不明、かつ煮え切らなさに、勃然と怒りまでわきおこった。もともと気性の烈しい娘なのである。
「……なんとまあ、頼りないおひと!」
 にじり寄って、七兵衛のひざに片掌をかけて見上げた。ふだんの彼女ならこんなことは決してしない。七兵衛が未来の夫たる男性ではなく、手のかかる被保護者であるかのような心情につき動かされてこその行動であった。はたから見れば相当に色っぽい格好なのだが、それも意識せず、環は熱弁でもって自分の試合相手に発破をかけた。
「七兵衛どの。そのような心構えであなたは、祝言でわたしに勝てるとお思いですか? 伊賀の女にむざと負けて、柳生の男として情けのうはござりませぬかえ?」
 環はおのれの体勢を気にかけていない。しかし、七兵衛にとっては気にかけないわけにはゆかない。しなやかな指が彼のひざをしきりにさすってくるし、彼の顔から二十センチとはなれないところに、匂やかな息を吐く美しい唇がある。──
 突如、七兵衛は「ひえっ」と悲鳴にちかい声をあげた。虚脱したような奇妙な表情を数瞬浮かべて、それから、周章狼狽その極に達したようすで、
「……し、し、失礼つかまつる!」
 猛然と立ちあがるや、がばがばと泳ぐような足どりで部屋を飛び出していった。環からはよく見えなかったが、そのうしろ姿は、なぜか股間をおさえていたようだ。
「…………?」
 あとに一人とり残された環は不可解その極に達したようすで、茫然としていた。


   舟馬と双羽


 柳生屋敷の一室で、舟馬は双羽と対座していた。
 男性的に力強く整った、沈毅な相貌。大柄な巌のような体躯。ややずんぐりむっくりしているため、良くいえば重厚、悪くいえば鈍重の雰囲気があるが、精悍さあふれる若者である。
 悠揚と落ち着きはらい、おだやかに双羽を見ているようで──ここではなく、どこか遠くをながめいっているようなふしぎな表情をしていた。
 双羽はしとやかに坐っている。透きとおるほど色が白く、面輪は陽がさしたように典雅で、しかも靄にけぶっているようにあわい。おぼろ月を思わせる優婉な美しさである。彼女もまた、舟馬を見ているようで──ここではなく、どこか別世界を夢想しているような恍惚とした表情をしていた。
 室内は寂として、時折、真ん中に置かれた火鉢から炭火がパチリと微音をたてるばかり。向かい合ったまま動かぬ両人は、つくりつけの内裏雛のようであった。
「──きょうは寒うござるな」
 ぽつりと舟馬がいった。よく通る太い声にもやはり鈍重な感じがある。
「──寒うござりますね」
 ぽつりと双羽がこたえた。珠をころがすような声までが典雅である。
「日が暮れれば、さらに冷え込むでしょうな。双羽どの、服部郷までの帰途、風邪を召されぬようお気をつけられいよ」
「はい、舟馬さま」
 みじかい会話を交わして、それっきり──また内裏雛に戻る。しーんと沈黙がおちたが、重苦しさはなかった。舟馬も双羽もほのぼのとして、いうべき言葉が見つからないというよりも、ただ相手が傍にいることだけで充足したようすであった。
 しばらくして、ふたたび舟馬が口をひらいた。
「ときに双羽どの、そなたは子供はお好きかな?」
「──は? はい。好きでございますが──」
 いぶかしげに答えた双羽にニコと笑いかけた。
「それは良かった。わしはの、子供の大勢いる賑やかな家というものが好きでござる。七兵衛と又十郎と、やかましい弟二人にかこまれてきたせいか、とくに男子の威勢のいい声をきくとなんと喃、心が安らぐ。──と申して、女子のやさしい声も、それはそれで好ましいものであろうな。わし自身はこれこの通り、鈍いたちもあって、とにかく子供らが元気に騒いで走りまわっておるような家に、居心地の良さを感じるのかも知れぬ」
 とつとつと、春の海のごとく茫洋とした調子で語る。はたちなかばと見える青年なのに、話す内容も口調もいやにじじむさい。きいていて、双羽は心中「子供が好きという意見が一致して、何が良かったのだろう」と首をかしげたが、ややあって、その意味するところに思いいたって頬にぼうと血潮をのぼした。
「……わたしも、子供の多い家を望ましゅう存じます」
 と、耳までさくら色に染めながら、あわく微笑んだ。そんな双羽を、舟馬はくるむようなあたたかいまなざしで見つめて、「そうか」とだけうなずいた。お互いの視線がからみ合い──
「はははは……」
「ふふふふ……」
 どちらからともなく笑い合った。祝言前のうら若い許婚同士とは思えぬ、まるで三十年、四十年連れ添った夫婦のような、実に自然で親密な空気である。
 ……やや間をおいて、舟馬は話しはじめた。
「月ヶ瀬の桃香野は、名は桃というが梅の名所でござってな。その数幾千……いや、幾万株か」
 先刻からどうも話の流れに一貫性がない。この男は思いつきをそのまま口に出すたちなのか、それとも思案の末に言葉を選んでいるがゆえか、見たところ荘重な顔つきからは判断がつかないが──。ふっと宙に眼を向け、
「一ト月後といえばちょうど花の盛り。──祝言の頃には、野のいちめんに梅が咲いて、見わたす限り紅白の雲がたなびくような、それはみごとな景色になっておるだろうの」
 依然としてゆったりと重々しい語調に、だがどこやら、陶然とした響きを帯びている。繚乱たる梅林がそこに存在するかのように、舟馬はフワとした微笑の顔をあおのけていた。
 見まもる双羽の瞳にも、酔ったような霞がかかった。彼女は、彼が見ているのと同じ風景が自分にも見える気がした。いや、──彼女は眼前にまざまざと、早春の風にゆれなびくその紅白の雲をえがいていた。
「ともに眺める日がたのしみじゃな、双羽どの」
「はい、舟馬さま。……」
 二月にちかい晩冬の午後、というといまの暦で二月下旬にあたる。春の足音はまだ遠く、大和は底冷えのする寒気で、この柳生谷にも、この柳生屋敷にも、身を切るほどに冷たい風が吹きおろしていた。
 その冷気がしみ込むうすら明りの部屋の中で、二人はしかし、やわらかい三月の陽射しに照らされ夢幻の梅花のふくいくたる香りにつつまれるような思いで、じっと相対しているのであった。……


   伊賀と柳生の見合い噺


 柳生谷の小高い丘の上にある屋形で行われた、柳生三兄弟と服部三姉妹の見合いは、当人達の心はしらず、表面上はつつがなく終了した。危惧したほどの波乱もさしてなく、柳生の庄の領主であり三兄弟の祖母である石刀自と、服部郷の領主であり三姉妹の祖父である服部半阿弥は、ほっと胸なでおろした。この婚儀は両者が談合に談合をかさねて決したことであり、「千年の敵」ともいうべき宿怨をもった両家がついに手をとり合って和睦しようとする、その第一歩なのである。
 ……さて、見合いのあくる日、石刀自は孫達に顛末をたずねた。三男又十郎は、お鏡に対するあらん限りの不平をのべたてて、では気に入らないのかと問うと、虚をつかれたような顔でだまりこんだのち「気に入らぬとはいっておらん!」と怒鳴った。次男七兵衛は、常は勇壮闊達の男なのに、どうしたことか座敷の隅に一人うずくまって、赤くなり蒼くなりしながら何かぶつぶつとつぶやいていた。長男舟馬は、彼だけはふだんと変らぬのんびりした笑顔で、「双羽どのに異存なくば、祝言についてわしに否やはござらぬ」といった。石刀自はちょっとくびをかしげつつも、まずは祝着、と安堵した。
 ……さて、見合いのあくる日、半阿弥は孫娘達に顛末をたずねた。三女お鏡は、よくこれだけ涙があると思われるほど泣きつづけていて、そんなにきらいなのかと問うと、「又十郎さまにきらわれたのではと、それが悲しうございます」といってまたさめざめと泣き伏した。次女環は、何を思い出してか軽蔑的なうす笑いを浮かべたのち、この女にはめずらしく嬌羞に頬を赤くして「わたしが、あのひとを服部の婿に相応しい男にしてみせまする!」と拳をにぎりしめた。長女双羽は、彼女だけはふだんと変らぬおっとりした笑顔で、「舟馬さまが御承知でしたら、祝言についてわたしに否やはございませぬ」といった。半阿弥はちょっとくびをかしげつつも、まずは祝着、と安堵した。
 伊賀と柳生の境にある月ヶ瀬の、南岸の桃香野で、三組の男女が或る勝負にのぞんで祝言をあげる──これは、その一ト月前の話。
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