Tlaltecuhtli

「Tlaltecuhtli」(トラルテクトリ)は大地の神(または巨大な怪物)の名前。世界創造の為に体を引き裂かれ、半身が大地に、残る半身が天になった。


一 ────
(1話中盤の「わかりました」「三度目のイヴ。今度こそ」のシーンの後)


「それにしても、命を狙われるとかよっぽどですよ。理由に心当たり、ありません?」
「むしろありすぎて絞れない。女に恨まれることしかしてねえし」
「罪な男キター! フゥー!」
「ちゃかすな! こっちは真剣なんだぞ!」
「すんません。──でも、もったいないなあ」
「何が?」
「セブン……じゃなくてエイトさん、ルックスはこんな完璧なのに性格がとことんクズで」
「『クズ』はホストにとって最高の褒め言葉だな。ありがたく受けとるよ」
「さっすがナンバーワン! 言うよねぇ~!(──ああ、本当にあなたはもったいないな)」
「黙れ。いいか、俺に“愛”をもちだして説教なんざ、二度とするな。虫酸がはしる」
「ウィッス(──美しい器には美しい魂を入れなきゃいけないのに)」
「“愛”なんてな、求めて探しまわったところで不幸にしかならないんだ。この世で一番、無駄で無意味だ」
「(なのにあなたは、人の心を踏みにじる。人の痛みを嘲笑う。愛情に唾を吐いてはねつける。──姿がいくら綺麗でも、あんたはどうしようもない欠陥品だ)」
「人生で必要なのは、金と力。これだけだ。目に見えるたしかなものこそが“幸せ”なんだよ」
「(俺はね、惜しいんですよ。残念でたまらないんですよ。だから、この手であなたの“欠陥”を取りのぞいて“完成”させて、あなたを“救って”あげたい)」
「和馬。おまえもこの街で上を目指すんなら、甘っちょろいこと言ってんなよ。ホストの価値はな、手に入れた金づるの数で決まるんだぜ」
「(“完成品”になれば──もうクズじゃない。俺だけじゃなく、もっと大勢から愛してもらえる人間になれます。それはきっと“幸せ”ですよ、エイトさん──)」
「おい、和馬?」
「……あっ、いえ、なんでもないっす! ところで、危ないことは勘弁してくださいよ。怪我とか絶対、嫌ですからね」
「大丈夫。あのキス女、普通じゃないけど、マジでやべえけど、男二人でかかればなんとかなるだろ」
「ほんとに大丈夫!? 俺、一般人っすよ!? そんな身の危険を感じるようなストーカーなら、まず警察に相談案件でしょ!」
「それが相談できなくて……っつか、相談しても信じてもらえなくて……」
「はい?」
「いや、いい。とりあえず、イヴの夜まででいいからさ。俺のそばにいてくれ」
「…………」
「頼むよ。和馬だけが頼りなんだ」
「了解っす! 憧れの先輩にそこまで頭さげられちゃ、断れませんね。ボディガード、精いっぱい務めさせてもらいます!」
「サンキュー! 助かったぁ。やっぱ、持つべきものはかわいい後輩だなー」
「でしょ? 俺、かわいいでしょ、エイトさん。俺のこと、愛してくれてもいいんすよ」
「調子にのるな。とりあえずイヴまでの話だって。それと“愛”もやめろ」
「もぉ~、照れちゃって、素直じゃないな~!(──もちろん、そばにいてあげますよ、ずっとね。だって“愛してる”から。セブンさんには裏切られたけど、エイトさんは約束を守ってくれますよね。あなたを“救った”ら、俺もすぐにあとを追うんで、今度こそ一緒に“幸せ”になりましょう──)」



二 ────
(4話中盤の「それに一人で行ってもね」「一緒に行ってあげようか?」のシーンの後)


「いいの?」
「一緒に来てほしい、ってはっきり顔に書いてある」
「美尊さんにはかなわないな。……そうだよ。さっきはあんなこと言ったけど、本当は、大切な幼なじみだからちゃんと祝福してあげたい」
「でしょう? だったら、最初から素直にそう言えばいいのに」
「うん。ごめん。……ありがとう」
「……どういたしまして」
「だけど、なんだか悪いな、僕の用事にまた美尊さんをつき合わせるのは。今日だって、無理にわがままを聞いてもらったのに」
「別に、あなただけのわがままじゃない。私も昨日のお礼をしたかったし。──でも、乗馬に興味があるなんて意外だった。それに、あなた結構、筋がいい。本格的に学びたいんだったら、うちの倶楽部へ正式に招待してあげる」
「本当? それじゃ、前向きに検討するよ。カリス、人懐こくてかわいかったから、もっと仲良くなりたいな」
「さあ、どうかしら? カリスは私の馬よ。私の気に入らない相手はふり落としちゃうんだから」
「それなら安心だ。僕はもう合格してるでしょ」
「か、勝手な自信もたないで! 私が、いつ、あなたを気に入ったなんて──」
「ひどいなあ。僕の命がけの告白とプロポーズ、届いたと思ってたんだけど」
「それは……でも……」
「いいかげんな気持ちじゃないよ。君への想いは真剣だよ。信じて」
「…………」
「だから、僕とのこれからを、美尊さんにも真剣に考えてみてほしい」
「……わかった。ただし」
「ただし?」
「私達、もっと時間が必要だと思う。──あなたの気持ちは受けとめておく。だけど、すぐにあなたをそういう対象として見ることはできない。だって、お互いのことを何も知らないもの。まだ何も始まっていないもの」
「……」
「ねえ、カウントダウンパーティーの時に言ってくれたじゃない。『わからないから知りたい』って。それは私も同じ。──私、時間をかけて一つひとつ知っていきたいの、旺太郎のこと」
「えっ」
「何?」
「美尊さん、僕の名前を」
「……だ、だって! お店の外で、客とホストじゃない時まで源氏名は失礼かなって! い、嫌ならいいのよ、もう呼ばないから!」
「違うよ、嫌なんかじゃない。その逆。──嬉しくて」
「嬉しい?」
「僕、これまでずっと、自分の名前が嫌いだったんだ。……子供の頃にいい思い出なんて無いし、大人になってからも、とてもじゃないけど褒められた生き方はしてない。それで、過去とか、境遇とか、現実の人生と向きあいたくなくて、仕事と無関係の場でもあえて源氏名で通したりしてさ。偽りの名前で自分を隠して、ごまかして、目を背けてきたんだ」
「そう……」
「だけど──今、美尊さんに本名で呼んでもらえて、すごく嬉しかった。ただのホストとしてじゃなく、一人の人間として存在を認められたみたいで。君のおかげで、すこしだけ自分自身を好きになれたのかも」
「良かった。──ほらね、また一つ、知ることができた。あなたが素敵な名前の持ち主だって。ね、旺太郎」
「ありがとう、美尊さん(──あ~あ、楽勝すぎてつまらねえな。もっと粘って焦らして俺を楽しませてよ。な、百億ちゃん)」



三 ────
(未来捏造パラレル。「トドメのパラレル」10話の後、紆余曲折を経て正式交際のIF設定)


「なあ、宰子。ちょっと話があるんだけど、いいかな」
「な、何? あらたまって……」
「一つ、頼みがあるんだ。聞いてくれる?」
「内容による」
「聞いたら叶えてくれる?」
「だから内容による。あなたは時々、無茶なわがままを言うし」
「それだよ」
「え?」
「その『あなた』っての、そろそろ卒業して。──俺のこと、名前で呼んでよ」
「……」
「……」
「う、うん。それじゃ、えっと…………堂島くん」
「いやいや、なんで!? 違うでしょ。いまさら名字は無いでしょ。下の名前」
「わ、わかった。…………エイト」
「俺、もうとっくに『エイト』じゃないんで。ホスト辞めてどんだけ経つと思ってんの?」
「じゃあ…………ナイン?」
「そう来たかー! それ、事務所名だから。ビジネス絡みから離れろよ」
「…………」
「──あのさあ」
「は、はいっ」
「宰子と俺って、どういう関係なのかな」
「……お、お付き合いしてる、かな?」
「疑問形にすんなよ。そこは断言しろよ」
「ご、ごめんなさい」
「だからさ、いつまでも他人行儀なのって、正直、寂しいんだよね。距離がずっと縮まらない感じで」
「うん……」
「これって、無茶なわがまま?」
「そ、そんなことない。あなたの言い分はよくわかるし、わ、私も、変えたいと思ってる。……ただ」
「ただ?」
「今まで、男のひとにそんな風に呼びかけたこと、なかったから……き、緊張して……」
「……へぇ~、そっかぁ~、俺が“初めての男”ってやつになるのか~。なら、ますます呼んでほしくなったな。今すぐ」
「(ニヤニヤしてる! すごいニヤニヤしてる! こういうところ、ほんっとクズ!)」
「慣れるために練習しなきゃ。ほら」
「……お、お……旺太郎さん」
「そう、それ。けど、さん、はいらない。呼び捨てでいい」
「よっ、呼び捨て!?」
「うん。がんばって」
「お……お……お…………」
「ん?」
「…………や、やっぱり今日は無理! ごめんなさい! あ、明日! 明日こそ、がんばる!」
「おまえ、かわいいなあ。──死んでもいいから、キスしていい?」
「だめ!!」



四 ────
(未来捏造パラレル。「トドメのパラレル」10話の後、紆余曲折を経て正式交際のIF設定)


「ファッション誌なんてめずらしいね。どんな心境の変化?」
「!?」
「そうかー。宰子もついに、ようやく、今度こそ、服装改革をする気になったか。いやー、長い道のりだったな」
「ち、ち、違う、そんなつもりじゃ……これは買ったんじゃなくて、ヒロミさんから貰っただけで……だ、だから、私、おしゃれに興味は……」
「え、またヒロミから? おまえ、どんだけ物欲しそうにしてんの?」
「欲しいなんてひと言も言ってない。帰りに更衣室で『休憩中に読み終わったから』って渡されて。『鞄の中身、軽くしたい』って」
「ふーん……(あからさまに廃品回収業者扱いだな)」
「『あんたにはこういうのが必要だから、プレゼントしてあげる』って」
「なるほど……(謎の上から目線でディスられてんな)」
「……物欲しそうに見えたのかな?」
「冗談だよ。真に受けるなよ。タダで手に入ってラッキー、儲けたわー、程度に考えとけ。──おっ、ほら、この子の服とかいいじゃんか。宰子も思いきって、これくらい肩と太腿を見せ」
「嫌」
「拒否が速い!」
「着ない。絶対」
「たまにはいいだろ、ケチ!」
「ケチで構わない」
「ところで、さっきから何を真剣に読んでたんだ? ──これ? 『緊急街頭アンケート!カップル10組のホンネ』」
「う、うん」
「えーと、『相手の長所を素直に褒めて、日頃の感謝を伝えるのが仲良しの秘訣』?」
「……」
「もったいつけて、くっだらねえなあ。そんなの、わざわざ他人に教わるようなことかよ」
「そ、そう? ……あなたは、教わるまでもなく実践できてる、って?」
「おう。あたりまえじゃん」
「…………」
「あ! その眼、信じてないな! よし、だったら実際に実践してやるよ」
「い、いい! いらない」
「遠慮すんな。宰子の長所だろ。──まず、ちっちぇーところだな」
「……え?」
「ちびっこくてちんちくりんなサイズ。いつもオドオドビクビクして、予測できないおかしな動き。そういうところが、小動物ぽくてかわいい」
「ち、ちんちくりん……小動物……」
「それと、ちょっとからかったらガキみたいにすぐムキになって怒るのも面白いし」
「ガキ……」
「ほかには、そうだな……あっ! あと、脱いだら結構、胸がでかい!」
「!!」
「普段ダボッとした服装ばっかりで気がつきにくいけど、脱ぐと実は……痛ぇ! 何すんだよ!」
「バカッ! この無神経!」
「おい、コラ! やめろって! 殴ることねえだろ、褒めてやってんのに!」
「ほ、褒めてない! セクハラ!」
「わかったよ、ごめんって! ……あー、ひでえ目に遭った」
「自業自得」
「──で? おまえからは?」
「え?」
「俺の長所、言ってくれないの?」
「…………顔」
「顔?」
「中身はクズでも顔だけはいいところ」
「ハァ!? おまえなぁ、いくらなんでも、そりゃ──」
「──だけど、性格悪いように見えて意外と親切。いつも自分勝手に思えるのに、いつだって周りを一番に気遣ってくれてる」
「……」
「たとえ自分が損をしても、他人を助けることを優先できる。口が悪くてひねくれて強がってばかりいるけど、本当は、誰よりもやさしくて繊細で傷つきやすいひと」
「…………」
「寂しがりなのに黙って何でも一人で抱えこんでしまうし、責任感が強いからすべてを一人でひき受けてしまうし、だからそんなあなたのことが私は心配で──」
「ス、ストップ、ストップ! ……もういい! もう勘弁して!!」
「?」



五 ────
(未来捏造パラレル。「トドメのパラレル」10話の後、紆余曲折を経て正式交際のIF設定)


「うーん……なんていったっけ……」
「どうしたの?」
「あとちょっとで思い出せそうなのに、そのちょっとが出てこないんだよなあ」
「何が?」
「この間見たドラマにな、宰子にそっくりの女優がいたんだよ」
「わ、私に?」
「ああ。それがマジでそっくり。うり二つ。生き写しレベル。顔も声も雰囲気まで激似でスゲー驚いたよ。おまえ、実は双子だったりしない?」
「しない」
「なんか、『料理は化学です』とか言う料理人の役だったんだけど。あのの名前、なんだったかなあ? 結構よく見るんだけどなー」
「(料理人の役? 誰だろ?)」
「あー、クソ! イライラしてきた!」
「検索すればいいと思う」
「安易に検索に頼るのは“逃げ”だ。こういうのはな、自力で解決して達成感を得ないと」
「そ、そうなの?」
「ま、いっか。そのうち思い出すだろ。──ついでといったらあれだけど、宰子、おまえに言いたいことがある。よく聞け」
「は、はい」
「おまえとよく似た女が有名女優にいるんだぞ。しかも人気なんだぞ。それはつまり、おまえも充分に美人の部類だっていう証拠じゃないか」
「は、はい?」
「宰子はちゃんとかわいいし綺麗なんだよ。だからもっと自分に自信をもて。いいな?」
「…………(真顔で恥ずかしいこと言わないで)」
「なんたって、この俺の彼女なんだし! 遠慮なんかすんな、堂々としてればいい。なんなら自慢してもいい。あと、たまにはお洒落な服を着ろ。せっかくの素材がもったいねえ」
「……あなたの」
「ん?」
「あなたの隣には……ううん。いい」
「なんだよ、はっきり言えよ。途中でやめたら気になるだろうが。……あ! まさか、俺がイケてるから気おくれして隣に立てない?」
「そ、そ、そんな……」
「たしかになー、それはあるよなー。そういえば、俺もホストやってた頃は俳優の誰だかにそっくりって評判でさ! ほら、あれだよ、いつかの日曜のドラマに出てたヤツ」
「(日曜のドラマ? 誰だろ?)」
「あの俳優、昔の中国が舞台の映画にも主演してたな。そのせいで、あの頃はどの客からも『天下の大将軍になる!』ってせりふをせがまれて言わされたっけ。店長なんか鉄板ネタみたいな扱いしてきて、ホントうんざり──」
「あ、あの!」
「え、違った? ……はいはい、わかってるって。どうせ俺は、芸能人とはほど遠い存在ですよ。調子のってすみませんね」
「そ、そうじゃなくて」
「じゃなくて、何?」
「あなたより格好いいひと、私は、芸能人のなかでも知らない」
「…………」
「…………」
「おまえ、真顔で恥ずかしいこと言うなよ」
「あ、あ、あなたの方が先でしょ!!」
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