天照

「天照」(アマテラス)はイザナミと別れて黄泉の国から戻ったイザナギが禊ぎを行った際に生まれた、太陽神である女神の名前。最も神格が高く、彼女の光は世界をあまねく照らす。


 ビーフストロガノフが好きなんですか?
 私がそう訊くと、彼──堂島旺太郎さんは小さくうなずいた。
「まあね。ガキの頃からの好物でさ。でも、食いもんの中で一番旨いと感動したのは……二月だったかな」
 “二月”という具体的な時期とどこか寂しげな語調が耳に残ったけれど、私は気がつかないふりをした。
「へぇ……。でも意外でした。自炊するほど料理好きなタイプのひとには、み、見えなかったから」
「いや。いつもはまったく自炊なんてしないよ。作れるのは、っていうか、作ろうと思うのは、これ一品だけ」
「え、じゃあ……どこか、おいしいお店でも見つけたんですか?」
 さらに会話をひきのばそうと努力しているのは、彼とのあいだに沈黙がおちるのが怖いからだ。この胸のざわめきが予測不能でもてあましているからだ。
 たいして意味のない質問をうけた堂島さんは、思いがけない、といった眼を見ひらいて、私の顔をまじまじとながめた。そんなにへんなことを言ったかな……と気まずさを感じ始めた時、彼はほのかに微笑んだ。
「そういうわけじゃないけど。……そうだね、店だったら良かったんだけどね。また食いに行けるから。……残念だけど、その世界一旨いビーフストロガノフは幻の味になっちゃってさあ……」
 ──(腹、減ってない? これ食ってく?)──(それ、何ですか?)──(これビーフストロガノフ。作るの手伝ってよ)──(でも、作ったことないです)──(作れるよ。宰子が作ってくれたビーフストロガノフの味は、俺がちゃんと憶えてる。マジ旨かったよ)──
 ついさっきのやり取りが頭をかすめる。寂しさを増した微笑と「宰子が作ってくれたビーフストロガノフ」の言葉が、胸をしめつける。……私はそんな料理、作ったことはない。それ以前に、堂島さんに料理をふるまったこともない。このひととまともに会話を交わすのさえ、今日が初めてといっていい。それなのに……。
 ──“夢”のなかの私は、あなたとどういう関係だったんですか? ──
 そう問いただしたい気持ちに蓋をして私は、カセットコンロの上の片手鍋でぐつぐつと煮えたぎるその料理をお玉でかき混ぜる作業に没頭した。
「……だから、どうにかあの味を再現できないかと思って何度もチャレンジしてんのに、これがちっとも旨くできないんだよねー」
 あはは、と気楽な笑い声を(無理して)たててみせた彼に「大変ですね」と相づちをうって、さらに鍋に集中した。


 ふたりで完成させたビーフストロガノフは、まあまあの味だった。
 格別、というレベルではないけれど、家で素人が作ったにしては充分に合格点だった。間違いなく一人分の量だっただろうそれを二等分した結果、堂島さんも私もあっという間に完食したあとで、ごちそうさまの次にその感想を述べた。
 私としては褒めたつもりだったのに、堂島さんが首をかしげる。
「そう? んー……まずくはないんだけどさー……いつも何か足りない気がするんだよな」
『あいつ』にコツを聞いときゃ良かった、とひとりごちている姿に、また胸が痛みだす。……『あいつ』って、それはきっと、私の知らない『宰子』のことですよね? ……
 ごちそうになったお礼代わりにせまいシンクで食器を洗いながら、嫉妬──そうよ、これは嫉妬だと認めるしかない──で身を焦がせている自分に混乱する。彼は“夢”の話だと言った。“夢”である以上、彼の語る『宰子』は、実在しない。……なのに、どうして、私はその『宰子』へ劣等感や敗北感をこんなにふくらませているのだろう?
「お皿、洗い終わりました」
 貸してもらったエプロン(必要ないといったのになかば押しつけられた、ここを訪ねてきた時に彼がつけていたエプロン。女性用なのがまた、要らぬ対抗意識をかきたててくる)で濡れた手をふいてソファの方へ声をかけると、「どうもー」と返された。
 脱いで丸めたエプロン(誰が使っていたものなのかは、結局、訊けなかった)を「洗って返します」と伝えて自分のショルダーバッグに入れたら、ややあわてた顔で固辞された。
「いいって! それ、君にあげるから! 気にしなくていいから持って帰ってよ。──俺より君の方が断然、似合ってるし」
 ……柄も色あいも私の趣味と合致する。使用感もほとんどない。貰っていいというのなら、普段の私なら喜んで受けとっただろう。でも……そのあわてぶりが『気にしなくていいから早く帰ってよ。俺んちに君がまた来る口実、作られても困るし』という意味にしか聞こえなくて、私はなんだか切なくなった。
「……そうですか。私がひき取った方がいいのなら、じゃあ、そうします。……」
 がっかりしたのが態度に出すぎていたのかもしれない。いや、あの、そうじゃなくて、なんつーか、と、とり繕うようなつぶやきをいくつかならべていた堂島さんも、最後にはおし黙ってしまった。
(忘れてよ。今のは全部、“夢”の話だから。気にしないで。残念だけど、君が探してた俺との記憶は……この世界には一つもないから。ごめんね、力になれなくて。……もういいだろ、帰んな)
 ああ、そうか。やっぱり私は「招かれざる客」でしかないんだ。
(俺は君がいなくなっても平気だと思ってたけど。女の一人や二人、失ってもどうってことないって思ってたけど。……やっぱり辛くて……)
 彼が失って辛い相手は、決して私ではない『宰子』。この私では代わりになれない、別の『宰子』。
 われながら驚くほどに昏くて強い感情は「嫉妬」を超えた「羨望」とでもいうのだろうか。そんな感情を抱いてしまう自身を嫌悪しながらソファへ腰かけたのと同時に、テーブルを挟んで向かいに坐っていた彼が入れ替わるように立ちあがった。
「ご苦労さま。……わるいけどさ、今、紅茶切らしてて。宰子もコーヒーでいい? 苦手だろうけど、砂糖とミルクめっちゃ入れたら飲めるでしょ?」
 ……どうしてあなたは私をよく知ってるの? 紅茶の方が好きだって、私、このひとに話したっけ? ……
 口に出したくてたまらない問いがふたたび、蓋をもちあげる。
 ──“夢”のなかの私は、あなたとどういう関係だったんですか? ──


 温めたコーヒー牛乳。──テーブルに置かれたマグカップの中の液体は、そう断言するのが最も適当なまでに大量の砂糖とミルクを投入されていて、かなりの甘党を自負する私でもひと口飲んだだけで閉口した。たしかに飲めるけど……甘い。甘いけど……苦手なコーヒーはこれくらいじゃないと飲めない。
 ここまでしてくれるいき過ぎた気遣いに、ついくすくすと笑ってしまった。私とは真逆にブラックを飲んでいた堂島さんが怪訝そうにした。
「どうしたの? 俺、何かおかしいことした?」
「ううん、違います。そうじゃなくて、ただ、──」
 声に笑いが混じるのを止められないままの私の口から、するりと自然に流れ出たせりふは。
「ただ、あいかわらずあなたのすることは極端だな、って思って」
 ──数秒、部屋の中の時間が止まった感じがした。自分の声が自分のものではないみたいに聞こえて、思考も停止した。……『あいかわらず』って、何?
 われに返ったのは私の方が早かった。
「……え? え? あ、あの、ごめんなさい! ……わ、私、今、なんかヘンなこと言っちゃいました、よね!? ……」
 マグカップに口をつけたまま固まっていた彼は、数回まばたきをしたあと、うろたえまくりも甚だしい私に吹きだした。
「……何だよ、ビックリさせんなよ! もしかして、とか思っちゃったじゃんか!」
 ……『もしかして』って、何が?
「つーか、おま……君に『あいかわらず』だの『極端』だの言われたくないね。助言してやってから一年も経つのに、君、あいかわらずその極端に地味ぃーな服装のままだし。──もう二十三歳だろ? せっかく素材はいいんだから、もっと女らしい格好して彼氏の一人でも作りなって。『スースーする』とか文句言ってないで、たまには短いスカートもはいてみろよ。絶対、似合うから」
 褒められてるのかけなされてるのか、よくわからない。でも余計なお世話だというのは、よくわかる。意地の悪さを隠しきれていないニヤニヤした目つきに反発がわきおこってきた。大体、スースーするって……短いスカートって……何を想像してるのよ、この男!
 不愉快を見せつけているはずの私の顔を指さして、堂島さんはなぜか嬉しそうにニッとした。
「そう、それ。その顔。やっぱ、宰子はそう来なきゃ。猫かぶってんのを相手にしてても面白くねえよな~」
 ……ひとを指さすのやめなさいよ! 何がきっかけでスイッチが入ったのか知らないけど、急にくだけた言葉遣いでからかわれてますます腹がたって、私は言い返した。
「そんなの、お、お互いさまじゃないですか!? あ、あなただって、羊の皮をかぶってるようにしか見えませんけど!」
 すると、いたずらっぽく瞳をかがやかせてから、堂島さんがいっそう嬉しそうに笑った。
「──さっすが宰子、わかってるねぇ! そんじゃ、お言葉に甘えて、素でしゃべらせてもらうな。ほんっと、おまえ相手に気取っておとなしくしてんの、調子くるって死ぬほど面倒くせえのなんのって!」
 無遠慮で品のない口調はどうしてか不快ではなく、懐かしさにちかい感覚がする。俄然、イキイキと口汚さを披露してきた彼から「おまえ」と呼びつけられて怒りよりも、どことない違和感の消えた安心が上回っている自分自身がふしぎで仕方なかった。
 ……だけど、そうだ、忘れてた。この男は一年前までは歌舞伎町のナンバーワンホストだった。そんなひとの性格が真実からソフトで人あたりがいいはずなかったのよね……。
 ふかく納得して、ささやかな嫌味をぶつけてみる。
「ええ、素でいいですそれでいいです私なんかにわざわざ気取ってみせなくて結構です! でも堂島さんて本当に見た目と中身のイメージかけ離れてますよね周りからよく言われませんか、口さえきかなければマシなのにって!」
 キョトンとした顔を向けられたのは、私の剣幕に呆れているせいだと思った──けど、どうやら違ったらしい。
 カップの中を見つめる伏せた眼がなんとなく哀しそうに感じて、どきっとした。……すこし言いすぎたかしら?
「あ……すみません、言いすぎちゃって」
「それは別にどうでもいいんだけど。……そっか、ふーん……堂島さん、か……。堂島さん、ねぇ……」
 えっ、──そこ!?
「じゃあ、どう呼べば……?」
「うん、エイ……あ」
 何か言いかけて口をつぐむと、ふたたび眼を伏せてうつむいて、というかむしろ、うなだれて考えこむ様子の彼。私はしばらく無言でこたえを待った。
 と、彼が突然、顔をあげた。妙にあちこちを泳ぐ視線がようやく私のななめ後ろへ定まると、聞こえるか聞こえないかの小ささでぽつり、と言った。
「えっと…………旺太郎、で」
 ──下の名前か。結構ハードルを上げてきた──。
 文字にしたら「ドキドキ」「そわそわ」という表現そのままな落ち着きのなさで頬までちょっと染めた絶世の美形を前にしては、対する私まで頬が熱くなってくるのはこれはもう、しょうがないわよね? でもそっちから指定しておいて、照れないでよ……。
 私は、心臓の音がすごくうるさいと思いながら快諾した。
「わかりました。それじゃ…………旺太郎さん、で」
 ところが、それを聞いた堂……旺太郎さんは指定が通ったのに露骨な不満顔をした。
「さん、はいらない。呼び捨」
「それは無理。さん、は外せない」
「……秒でかぶせて拒否られた!」
 おおげさに肩をおとしてため息をついているのがおかしくて、自然と口元がほころぶ。呼び捨てなんてまだ無理よ──今は、まだ。
 笑いあう目線を交わしたことで、穏やかな陽ざしを思わせる暖かい気分にひたっていた私は、次の言葉で冷水を浴びせられた。
「ま、いいか。──じゃ、それ飲んだらさっさと帰んな。もう二度とここには来るなよ」
 ──なぜ? どうして?
 まだ親しみをこめた笑みをただよわせて軽い調子で淡々と拒絶してきたのが逆に、彼がいかに本気でそれを望んでいるかを痛感させて、私はすぐには二の句もつげない。
「おまえの依頼は受けられない。客でもないのにここまでサービスしてやったんだ、感謝しろよ」
「……でも……でも……“夢”の話の続きは……」
「続きを話すなんて、俺、言ってねえし。おまえに聞かせる“夢”は、もう何もない」
「そんな……」
「もとから、飯食わせて食後のコーヒー淹れてやったら即サヨナラ、って思ってたんだよ。これ以上、長居しないでくんない?」
 次の瞬間、ぬぐったように旺太郎さんから親しみがなくなった。冷たい瞳が私を無感情に見すえた。
「去年、伝えたはずだぞ。二度とおまえには逢わないって。逢う必要もないしな」
「……必要って! 必要がなかったら逢ってもくれないんですか!? あんな……あんな“夢”を聞かせておいて!?」
 涙は我慢してるのににじんでくるし声はふるえて出しづらいし、だけどとにかく私は必死だった。
「り、理由をおしえてください、あなたにもう逢いに来ちゃいけない理由を!」
「理由……」
 つぶやいて、わずかな逡巡を見せたあと、彼は向かいのソファから腰を浮かせた。小さなテーブルの上に身を乗りだして伸ばされたその両手が私の肩をつかんで、近々と寄せらせたその両目が私をのぞきこんできて、息が止まりそうになった。
 だけど、さわぎかけた鼓動は、すっと静まる。間近に真正面に相対した瞳が無感情なのではなく、感情を懸命におさえていたのだと気づいたから。
「宰子、俺と“未来の契約”をしろ」
 脳裡に火花が散った気がした。──知っている。はじめて経験する状況だけれど、私はこの光景を知っている。
「“契約”……」
「いまさらムシのいいことを、って思うかもしれないけど……。でも、救いようのねえクズだった俺は、人生を変えられた。未来に一歩踏みだせるようになった。俺を変えてくれたのは……“夢”の世界で一緒に過ごした宰子だ。あいつがあの“夢”を見せてくれたおかげだ」
 いくつもの想いに、おさえきれなくなりそうな危うさで揺れるまなざし。このひとにこんな眼をさせる『宰子』が、私は心の底からうらやましい。
「だから──次はおまえの番だよ。俺と同じように、おまえも自分の人生を変えろ。自分自身の未来に向かって生きろ。過去ばっか見てないでこれからは前へ進むって約束を、“契約”として俺と結べ。俺を救ったことを意味のあるものにして欲しいんだ。──おまえが生き残った理由はな、他人の役にたつためじゃない。おまえ自身の幸せを手に入れるためなんだよ」
 ……もうだめだ。我慢してたけど、だめだ。あふれて落ちる涙がロングスカートに染みを広げていった。
「“過去へ戻れるキス”があろうがなかろうが関係ない。そんなもん使わなくたって宰子は、自分の力で未来を変えられるんだよ。変えてくれよ」
 泣くとも笑うともつかない旺太郎さんの表情が胸を刺す。
「報酬は、そうだな……今日、おまえは俺に逢いに来てくれた。俺はおまえにビーフストロガノフを食わせてやった。これでどっちも、全額前払いで完了っつーことで。よって途中経過も満了報告も不要。これが、俺達の再会が必要ない理由だよ。──安心しろ。離れていても“契約”したからには、俺達は“パートナー”だ。一緒に、二人とも、それぞれの幸せを手に入れられるよ」
『もうひとりの宰子』への焦げついた気持ちはいつの間にか失せていた。もう“夢”の続きは気にならない。結んで欲しいとさし出されたこの“契約”は、この私のためだけの新しい絆。
「もう一度言うぞ。おまえはもっともっと、幸せになれんだよ。だから、今度こそ幸せになって、そして──俺なんかじゃ手のとどかないくらいイイ女になってみせろ。なあ、佐藤宰子」
 今の私が幸せなのか不幸せなのか、それはわからない。けれど、別れを告げるせりふが哀しいのも、“契約”という名の“希望”が嬉しいのも、全部、目の前のこのひとが与えてくれたもの。
「……はい」
 鼻をすすりながら何度もうなずいていたら、肩から離された右掌がちょっと乱暴に(でもすごくやさしく)私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「あー、もう! 泣くなって! おまえ、泣き虫なとこも変わんねえのな」
 そう言って旺太郎さんは、これまで私が出逢った誰よりも晴れやかな明るい笑顔を──私の心をずっと照らしていくだろう太陽を──見せた。
「とり戻さなきゃいけないもの、おまえにもいっぱいあんだろ? 俺は俺の、宰子は宰子の、人生を思う存分生きてみないか。それでもしも、その先のお互いの未来でまだ縁があったとしたら──また逢おうな」


 雑居ビルの階段の最後の一段をおりて路上へ一歩踏みだすと、目を射る赤さの夕陽の光がそそいでくる。せわしなくもどこか浮かれた空気の街の喧騒が耳に飛びこんでくる。大晦日の夕方の新宿は、真冬であることを忘れさせそうになるほどにぎやかだ。
 思いだした。ここ最近はぐずついた天気ばかりだったからひさしぶりの太陽の暖かさがもたらす高揚感と、今日が一年の最後の日という寂寥感が、私の脚をここへ向かわせたことを。このままじゃいられない、「やり残したこと」を抱えたままじゃ年を越せない、と決心したことを。
 ふと、ビルの入り口の壁にある案内板に目がとまった。三階の部分の古ぼけたプレートに、奇妙なローマ字の綴りを見つけた。
『FURIDASHI』──
 何かの暗示みたい……まさかね。
 苦笑しながら首をふって、私は今出てきたばかりの雑居ビルをふりあおいだ。もしかしたら見送ってくれてるかも、とかすかに期待して『ナイン探偵事務所』が入っている場所を見たけど、当然というべきか、事務所の窓にはすべてしっかりとブラインドがおろされていた。
「そうよね。一度決めたことは絶対にあきらめない、どんな手段をとってもやり遂げる──それがあなただったわね」
 また勝手に動く口。勝手に懐かしむ心。けれど今は、それすらも楽しめる。気があうわね、『宰子』、彼についての感想は私もあなたとまったく同じよ。──
 ブラインドのおりた窓へかるく手を振ってから、私は歩きだした。
 今日で今年が終わる。あと数時間後の明日からは、新しい年。新しい人生。新しい私。
 これからの日々はいそがしくなりそう。だって私には、今までに、あきらめてきたものがいっぱいある。見て見ぬふりをして、気づかない演技をして、背を向けてきたことがたくさんある。その一つ一つをとり戻していかなくちゃ。幸せを目指していかなくちゃ。それが──“未来の契約”なんでしょう?
 もう逢えなくても、今日が別れの日でも、これが私達ふたりの出発点ならわるくない。──ここから始める、スタートライン。
 彼が示してくれた私の生きる意味。ちゃんと自分の人生を生きている、と胸をはって笑えるように、これからは全力で前へ進んでいってみよう。
 そして。──
(もしも、その先のお互いの未来でまだ縁があったとしたら──また逢おうな)


 もしも、その先のお互いの未来でまだ縁があったとしたら──また逢いましょう。
 ねえ、堂島旺太郎さん(さん、は外せないかな。今は、まだ)。
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